ビフォアー&アフター
ビフォアー&アフター Vol.5
上京区三軒町 I邸
古式伝える町家。しかし不具合・不都合がそこかしこに…
北野天神門前という古い土地らしい、古式の町家です。恐らく、登記情報によってその存在が確実視される昭和初期を更に遡るものだと思います。古式家屋の特徴である「虫籠(むしこ)窓」が正面2階に見えるのがその証拠。多分に洩れず、家屋改装が進む周囲にあって、ゆかしい古式を伝える貴重な存在です。
しかし、その傷みようも、家屋の歴史同様、深いものがありました。先ずは、やはり床。下板の傷みに因り、畳に乗ると浮遊感が。また、柱や土壁の方々にも傷みが見られました。特に深刻だったのが、2階部分。雨漏りにより天井板が大きく傷み、その下の畳まで腐っているありさまでした。水受けの為、子供用の浴槽が置かれていたことが、その害の大きさを窺わせるようでした。
その他、様々な不具合や不都合が建屋のそこかしこにありました。今回は販売用途の為、この状況に全面的アプローチをとることとなりました。名工塗りのファサード光る、現代生活完全対応町家誕生
ともかく、敷地までの全てを含めた全面改装なので、その労力や工数は多大なものとなりました。しかし、その分、得られたやりがいも大きな工程となりました。行った主な改修箇所は以下の通りです。
1F部分
床・天井 先ずは床板や根太(ねだ。床の支え材)、大引(おおびき。根太の支え材)を交換し、床の劣化に対処しました。そして、上面を樺桜の無垢材を用いた板間に仕上げましました。もちろん、1室のみ残した和室には新調した畳を入れました。また、同時に1階天井板も質感ある無垢材に張替えました。
庭 乱雑な感じだった庭を整理し、境界塀も焼杉を用いた落ち着いたものに造り替えました。
2F部分
天井・屋根 その低さから圧迫感があり、雨漏りによって傷んだ2階の天井板を取り外し、趣ある梁構造を見せることとしました。そして、雨漏りの根本原因である屋根瓦と、その下地である野地板を全て交換しました。
その他&全体部分
柱・敷居 傷んだ柱や敷居を交換しました。古材との調和を図る為、自然塗料(柿渋・墨汁・ベンガラの混液)を用いて着色しました。
土壁 全ての土壁に塗り直しを施しました。代々文化財修復等を手がけてきた「土橋左官工業」による伝統の本塗りです。建屋前面は、貼られていた着色ブリキを剥がし、同じく土橋工業により本漆喰塗りが施されました。最もの見所は、かの「虫籠」部分です。入り組んだ細部をも克服する優れた鏝技により、建設当初の優美な姿がよみがえりました。
浴室・台所 従来あった、趣ある台所を清掃・整備して洗面所として残し、機能性を考慮してシステムキッチンを別所に新設しました。また、元々なかった浴室を2階に新設しました。浴槽を有したユニットバスの為、床下に補強材を新たに入れました。また、それにより廃された小階段に代わり、本階段の踊り場を広げ、機能性を高めました。
建具 木製建具類を補修・調整しました。一部には、デザイン・雰囲気を考慮して新しいものを入れました。新しいといっても、質の良い古物を専門商より取り寄せて使用しました。室温保持・換気・採光の為に新設した、階段室や虫籠用等のガラス戸がそれです。また、建屋正面、和室用のアルミサッシを取り去り、趣ある出格子を新設(復帰?)しました。
配線・照明 屋内配線を一新し、各所へのコンセント配備や容量アップ等、現代生活に適応した電源環境整備を行いました。また、一部の天井電源には、可動式照明が取り付けられるレール式を採用し、照度調整の自由度を広げました。
以上のような大改修を経て、希少町家にまた新しい価値が加わりました。名工塗りのファサード(前壁)光る、現代生活完全対応型町家の誕生です。