ビフォアー&アフター
ビフォアー&アフター Vol.6
東山区薬師町 H邸
奥深い土地の由緒とは裏腹な「 見放された家」
持主の方は名古屋にお住まいになられ、長い間、空家状態で放置されていました。
ここ薬師町は、いにしえに云う「六波羅」の地。京外ながら、古くから続く宅地で、中世には将軍に属した兵卒が居住していた、との話も近所の方より伺いました。
しかし、そんな奥深い土地の由緒とは裏腹に、内部は天井板がめくれ、畳は腐り、床板共々抜けんばかりの惨状でした。
見放された家―。初めて見たときは、正直そんな印象を持たざるを得ない状態でした。
古式を活かしつつ、現代生活にマッチした居住空間へ変貌
天井 低かった天井板を取り払い、天井高を上げました。最高天井高は約4メートルあります。露出した古式の梁組みの、素朴な美しさを活かしました。
土壁 一部土が落ち、内部の木舞(こまい。竹組み壁下地)が見えていた土壁の補修は、数々の文化財補修を手がける左官名工、浅原雄三氏に依頼。折りしも、氏はかの金閣寺を補修中で、なんとその余材を使用することとなりました。武家将軍ゆかりの金閣と、六波羅―。歴史の因縁のような、なんとも興趣ある出会いです。
床・建具 床は、無垢の杉材を使用したフローリング仕様にしました。また、トイレの引戸は近隣の解体現場より譲り受けた古建具を洗い、改修して使用しました。昔の建具には良材と高い技能が投入されています。同等の品を求めることが難しくなってきている今、積極利用することとしました。何より、その姿は古式たる家の雰囲気とよく馴染みます。手間は掛かりますが、ささやかにこだわりを表現しました。
こうして、由緒ある地の古式空間が、それを活かしつつ、現代生活にもマッチした、簡素ながら質感ある居住空間へと変貌を遂げました。