町家で読書
町家に住むと本が読みたくなる。- 夏編 -
西瓜(白髪鬼 所収)
岡本 綺堂
光文社(光文社時代小説文庫)/ 560円
夏といえば怪談。という訳で一押しは本編。江戸と現代を巧みに往還しつつ、抑えた筆致で的確に綴られる滋味溢れる怪奇譚。暑さ真っ盛りの折、調子こいて冷たい物三昧の人ほど怖さが堪能出来るかと。不穏な嵐と不安が二重になる結末は夏の終わりに読むと殊更、味わい深いかと思われます。
スペインの短い夏
H・M・エンツェンスペルガー
晶文社/ 2,345円
1936年に勃発した人民戦線政府と反乱軍によるスペイン内戦。本書は以降の世界に決定的影響を与えた戦闘に於いて黒歴史扱いのドゥルティ像に対し、様々な資料/引用の織物で応答する問題作。読後にDurutti Column『Sketch for Summer』やシチュアニスト運動を召喚するのもいとをかし。
水の女(古代研究1ー祭りの発生 所収)
折口 信夫
中央公論新社(中公クラシックス19)/ 1,785円
蛍が飛び交ったかと思えば湿気の多い梅雨。湿度と雨でグズグズ気分の時こそ本編攻略の好機。古代詞章への拘りと薬物嗜好のダブルコンボで醸造された御大の思考運動に眼と精神を委ね、古の神女を巡る謎解きの世界に遊ぶのも一興。終結部の話題は七夕でまさに春と夏の交点に相応しい内容。
美しい夏
チェーザレ・パヴェーゼ
岩波書店(岩波文庫)/ 588円
あのころはいつもお祭りだった。家を出て通りを横切れば、もう夢中になれたし、何もかも美しくて、とくに夜はそうだったからこの至福感覚を忘れてしまった人は再読必須。まだ間に合うかも。ファシズム到来期の伊を舞台にAdolescenceの奇蹟と無惨が凝縮された瑞々しい果実の様な傑作。