住人十色 12
町家の手作り美容室 “うわのそら”
上谷氏
美容室のフロアのとなりは、ちゃぶ台のある座敷の待合室だった。靴を脱いで上がるとゆったりする。「ガラス張りの店内が苦手な人に」と、昨年末に店を開いた上谷奈津子さん(32)は店について語りだした。
単なる「昔ながら」の感じとは違う。柱はヤスリで丹念に磨き上げられている。塗装がはげたように見える板壁は、何重もの工程を経て仕上げられた漆工芸品。窓のステンドグラス、間仕切りの染色布、音響効果、店で選べるアクセサリー類にいたるまで、京都の若いアーティストの創意と工夫が生かされている。
知り合いのつながりで集まったそれぞれの作家が「全体の雰囲気をみながら、それぞれの部分を造った」と染色布を担当した照明作家の村上菜々子さん(27)は言う。「まわりの人からいろんなものをもらい、それをお返しするための活動がこの店です。」
埼玉県出身の上谷さんは、京都に移って6年。店に至るまで原点は、東京での学生時代、舞踏家大野一雄さんのもとでスタッフに参加したことだったいう。「そこにいるだけで、人としてのたたずまいが自然で、まったく無理がない」と、偉大な芸術家に啓示を受けた。
京都へは和裁を学ぶために移り住んだが、大学の寮食堂がライブシーンだったりと、意外な場所が点在するまちなかで出会いが広がっていく。その後、広い美容院の現場を任されていたが、全体の流れを切り盛りしながらカットをするのは忙しかった。
個人営業の店は「じっくりとお客さんと接するため」。一対一でゆったりと接するとき、せわしない営業トークは必要でなくなった。
商店街にあった空き家を2カ月がかりで改装。天井をはがし、天窓をつけたら何とも言えない開放感が生じた。それで、仲間たちが一致してつけた店名は、「うわのそら」。玄関より一段だけ高いフロアはどことなくうきうきしている。