住人十色 6
創造拠点、増田屋ビル 下
増田屋ビル5階に住むウェブデザイナー和井内洋介さん(25)は、仕事上、いすの生活ができるようにと、昨年1月、板張りのあるこのビルに引っ越した。老朽化で風呂は使えないが、住み心地は予想以上のものだった。
自宅で仕事をするSOHOにとって、気分転換は必要だ。その点、このビルは出会いの場に満ちている。午前中、起床。2階に降り、ギャラリー「アンテナ」で展示をみる。昼は外食し 、夕食のおかずを買う。戻ってからは同階のベトナムスタイルを提案する店「Rejine(レジーン)」でお茶……。
「外からビルに入ると、ほっとした気分になる。」と話す和井内さんにとって、ビルは「広い家」のような存在となった。本が読みたいときは、古書店「書肆 砂の書」へ。
寺井昌輝さん(38)が昨年開いたこのお店は、ライター編集者の沢田敦子さん(36)の事務所も兼ねる。5階の一室にひっそりたたずむ異色の古書店だが、寺井店長は「本好きの人がくつろげる空間に」と、あえてこの場所を選んだ。店長の話に興味が尽きないと和井内さん。趣味性が高い本が並び、一冊一冊が語りかけてくるようだ。
夜、5階に集まってくる若者たち。カフェイベント「ビーグットカフェ京都」の活動で知り合った若者らの事務所「匣」。イベントでのごみ回収などに取り組むグループ「エコトーン」や、アートドキュメンタリー映像を手がける加藤文崇さん(25)らが共同で利用する。それぞれ分野は違うが、かえって話がひろがるという。
和井内さんは「気分転換に」パソコンを持ち込んで、仕事をしようとしてトークに夢中になることもしばしばという。時には料理好き和井内さんが、「配給」することもあり、持ちつ持たれつの関係もできている。
ギャラリー「アンテナ」の奥一富さん(33)は、「クリエーティブな仕事は生活感覚があって立ち上がる部分もある」という。
住民同士のゆるやかなつながりがあり、外部にも微妙に開かれた空間。こうした空間が増えれば、京都もさらに面白くなることだろう。