住人十色 7
銅版画家、元居酒屋でアトリエ&居住
集治氏
住宅と商店が立ち並ぶ西ノ京。表通りに面した間口約4メートルのもと居酒屋は、銅版画のアトリエ兼住居に変身した。
昨年11月から住む集治千晶さん(31)は、1階の元店舗に機材をそろえた。「広い土間のある部屋がほしかった」と集治さんは話す。
銅版画には、工程ごとにさまざまな専用の機材が必要だ。版板に着色する際には、油性インクが固まらないよう温度調節のできるウォーマーという金属板を使う。
版を刷るプレス機は重さ500キロ以上もあり、搬入するには玄関と段差のない土間が好都合だった。また、版面を洗う設備には水道の配管も大切。通りに面し、水回りも便利な飲食店の構造が、意外にも銅版画製作にぴったりだったのだ。
これまでは、非常勤講師を務める京都市立芸術大の設備を使わせてもらっていた。しかし、当然のことながら学生の制作が多いシーズンには使えない。個展が続くようになり、「そろそろ作家として独立を目指す時期」と、アトリエ開設に乗り出した。
大阪では近年、空き倉庫を再開発しての大規模な創作スペースが登場しているが、住みながら制作するのが京都流か。「起きてすぐに制作できる」という便利さ。
でも、2階の居住スペースとアトリエが区切られた構造の為、制作とそれ以外の時間にめりはりができる。100号以上の大型の作品をつくるにはより広い場所も必要だが、現在のこの場所は「ひとりで制作するには適度な広さ」という。
細やかで色鮮やかな模様や線がちりばめられた作品は、東京などでは「着物の柄のよう」と表されることも。生家が下京区の呉服卸業という集治さんは「京都の感じが好き」と話す。それはアクセントに富んでいることだという。
自転車で生活できる範囲にエッセンスがほどよく凝縮されたまちなかの様子が、作品にも反映されているようだ。