住人十色 14
洋画家、元電器店で創作活動
與倉氏
静かな旧街道沿いの、よしずが下りた元電器店。くぐってみると、與倉玲さん(33)がそこで日本画のアトリエを構えていた。
3年前に引っ越して、シャッターの下りていた元店舗を2週間がかりで整理整とん、改装したという。アトリエ奥の居間では、同じく京都市立芸大出身の妻の由紀さん(26)が長女千花ちゃん(2つ)に絵本を読み聞かせていた。
ここ下立売通は、洛中から西に伸び、嵐山に至る主要な街道だったが、戦後には広い新丸太町通が開通、交通の流れが変わった。まちの電器屋さんが閉店した後に登場したのは、店舗ではなく、アトリエ。「天井が高い部屋は、一般の住居では、なかなかない。」という。また、「町家ブーム」で、中心部の町家の家賃は概して高いとも。
制作の場をもつことと住む場所をもつことは、芸術を志す者が共通して抱える課題という。「芸大を出ると、みんな泣かされるんですよ」。広い実家を持つなど条件に恵まれない限り、制作を続けていくことも難しくなっていく。借り手のない店舗用住居が、意外なニーズを秘めていたのだ。
與倉さんは中学で美術を教えるかたわら、週末はアトリエで過ごす。じかに道路に面しているだけに、来客にしばしば接する。「画に集中しているときの顔で、来客のほうを振り向くと、たいてい怖がられてしまう。」と苦笑する。 畑を開発した住宅地が並ぶなかにあって、芸術家という暮らしは珍しいのかもしれない。
3年がたち、新たな課題が出てきたという。坪庭を改造した作品収蔵庫は満杯になり、作品はアトリエを圧迫しはじめた。「そろそろ次を考える時期とも思うんですが……」広い場所を求めると田舎になる。それだと、より制作に打ち込む生活スタイルが前提となる。生活と制作のバランスをどうするか。手探りで進めてきた暮らしの中で目下思案中という。