住人十色 16
ビルの1階テナントをアトリエに
現代アートユニット “wah”
ビルのシャツターを上げると、ベニヤ板製のビル模型に、のりを入れた洗面器がずらり。棚には工具や映像機器。そして真剣な表情で半練り状態の液体を溶かし、おたまですくう若者たち。一体何が行われてるのだろう。
「液体ビニールの固まり具合を試しているんですよ」。と山川雄高さん(26)は解説する。山川さんと吉田明弘さん(25)、南川憲二さん(24)の3人は、京都精華大在学中からユニット「wah(ワウ)」を組み、アート作品を制作している。この「実験室」は協同アトリエ。9月の展覧会に出展するプロジェクトのため、「のり」を調合実験中だった。
建物の上から「のり」を垂らすと、確固とした建築物がぐにゃぐにゃに見えるのではないかという期待と興奮。「とにかく垂らすのと、はがすのがやってみたくて」と山川さん。芸術家の衝動に意表をつかれる。「wah」の名は、「3人の名前から、頭文字ではない文字を一つずつ出して組み合わせた」と南川さん。禁欲的になるのを避け、面白そうなアイデアがあれば膨らませる。潜在する可能性を共同作業で見いだそうと希望を込めた。
広いアトリエは、大きな作品ができるのが利点だ。人工の「海」を演出するためベルトコンベアーを組み合わせたこともあるといい、3人共同でスペースも作品スケールも広がる。
冷房のない部屋で夜、汗を流しながら作業する若者たち。隣の料理屋さんから差し入れをもらったことも。お礼に作品のビデオを見てもらったところ「よく分からなかった」と感想をもらったが、近隣の人情の厚さにも感激した。
実家が市内の吉田さんを除く2人は、約300メートル西の路地奥の家で改装作業を進める。家とアトリエの2軒を共同で借りているが、それでも家賃を割ると「ワンルームより安い」。住宅とビル、改装自由な空間を共同で使うことで、表現や生活の可能性が広がる。