住人十色 18
元スナックの地下室で現代アート
三家氏
通行人でにぎわう商店街のビルに、細い地下階段がある。三家俊彦さん(24)は、大学を卒業した今年の春から、元スナックだった地下室に住んでいる。
タイル張りの床、大きなミラーが店だった様子をほうふつとさせる。さすがに広く、天井も高い。三家さんはカウンターと厨房の周囲に壁を張り巡らし、その内部を居室にし、残りの店舗部分はアトリエとして使っている。
「作品制作で音を出しても大丈夫」と地下室を選んだ理由を話す。窓がなく、壁にかこまれた地下室は、閉じこめられたような空間だ。と、三家さんは奥の納戸から、段ボール箱を取り出した。箱から引きずりあげられたのは人間……いや、人間から型をとった人形だった。
「以前の作品の一部。自分を型にとったものです」。三家さんは、自分と、周囲の空間との関係をテーマに制作を続ける。実際の倉庫、ビルを舞台に生活ノイズが発生する装置などを仕掛けた作品は、まちなかにある具体的な場所で展開することで、場所の本質を追求してきた。
当然のことながら、日中でもまったく陽が差さない。湿気もたまり、「水が1日に5リットルもとれる」ほどで、除湿器を常時動かせている。地下室はふつう、住居としては使いにくい。しかし地下室は、「まちなかにありながら、周囲から隔てられた場所。感覚がとぎすまされる」と気に入っている。
昼間でも、好んで薄暗い照明で過ごすという三家さん。しかし、戸を開けて階段を上がれば、生活臭に満ちた商店街が広がる。地表から隠れた、文字通りの「アンダーグラウンド」から「場所とは何か」を問いつづける。
元スナックだった地下室が、三家俊彦さんの住居。最初は「鏡が大きくてこわかった」とも。背後の人形は、昔つくった作品の一部。ミラーの右側にあるのが納戸。
CD店のようにもみえるカウンター。ウイスキーのびんが並んでいたとおぼしき奥の棚には本が収まる。
表通りから地下へと続く階段。