住人十色 27
企画「住人十色とは何だったのか?」座談会3
~空き家居住から見える、京都に住むことの可能性~
― 最後に、空き家に住むというあり方を通じて、京都に住むことの可能性を考えてみたい。
平野 東京は、ワンルーム8万円の世界。アーティストで、月8万円稼ごうと思ったら大変だ。ところが京都では同じ家賃で一軒家が借りられ、共同生活できる。
森田 東京にも古い家はあるけど、谷中とか、一部のエリアに限られている。これだけの規模で古い住宅が残っているところは、なかなかない。東京は空きビルを使う流れがあるが、京都は木造建築の再利用が主流。
平野 古ビルとか、リノベーションがブームと言われる。
森田 木造の家は自分で手が加えられるところが大きい。コンクリートだと、素人ではなかなか手に負えない。
向後 京都には芸大を出た友達がたくさん残っている。なんで京都に残るのかというと、帰ったとき、自分がやっている制作活動への受け皿がない。京都に住み続けるのは、やっぱり実家に戻るとつらいと分かっているからだと思う。卒業すると、全員、制作ができているわけではない。結局バイトだけになってしまう人もいる。でも、何かしらやってしまうのが、芸大生の習性。
森田 京大生では卒業後に京都に残っている人は少ない。大企業へ就職し、東京や大阪へというパターン。 向後 気になることは、僕が改造した今の家を出たら、その後はどうなるのかということ。
平野 作家の需要は多い。版画、写真、染織など、土間の水回りを好む人はいる。だけど、大家さんは「こんな家には住む人はいない」と思っている。そのミスマッチがある。大家さんには「アーティストをサポートしている」という気持ちになってほしい。アーティストを育てることは京都のためにもいい、という価値観は、昔から職人を大切にしてきた京都では、なじみのある価値観ではないか。
― 発表の場は海外や全国でも、住む場所、制作する場所は京都という形か。
森田 ものづくりをする環境として、申し分ない。建築に限らず、優れた技術を持った人がたくさんいるし、素材も豊富だ。
平野 事業としてのサポートというより、自然発生的な動きが次々と生まれている。そこに目をむけることが必要だ。
― 「住」を通じて、京都の風景は変わるだろうか。
森田 これまでのような、統一されたまちなみは難しいと思う。素材もまちまち、価値観も違うからバラバラの建物が立ち並ぶ。ただ、その中でもきれいなバラバラときたないバラバラがあるはず。バラバラだけど美しい町を目指す方が前向きだと思う。
平野 イタリアでは、城壁の中の伝統市街地は壁紙の柄まで厳しくチェックされる。そこまで厳しい規制があるおかげで観光客が来る。京都でも、中京のどっかで古い町並みを保存しておいたらよかったと思う。
向後 でも、観光になっていない段階だから楽しいところもあると思う。作家が住んで自由に動かしているのが、活気づいている感じになる。観光地になるとさびしいかな。
平野 確かに、観光地には、人は住みにくい。
森田 過去の蓄積である京都ブランドも大切だけど、新しい価値観を見いだすのも京都の伝統と言えるのではないか。
造形作家
向後 聖紀
住居プロデューサー
平野 準 (サイト注:ルームマーケット代表)
建築家
森田一弥